晴れ、ときどき私信。

簡単にすっとばしたいいかたをすると、外用皮膚薬で全身の肌を焼いてしまったような副作用で、約半年は寝込んでしまっていた、個人的にクソったれだった1990年代。
フツーこういう、全身に皮膚がまったくない状態だと、人間は痛くてたまらないもんだろうが、ヒトに伝わる一番近い感覚でいうと「猛烈に痒い」というのも、なぞ。しかも表皮が痒い、のではなく、触れるまでもなく風が動いたくらいの刺激でも、受けた部位の深いところ、骨の周りといったらいいだろうか、そこから痒みの感覚が湧き出てきて止まらなくなるのだ。当然、掻き毟ったところで手が届くわけもない。
だからといって安静に、と寝転んでしまうと、うっかり眠った隙に浸出液の乾いた部分で、トリモチのごとく布団にカラダごと張り付いてしまうので、実は布団は折り曲げて背中に恐る恐る当てているにすぎない、いわばゆる〜い体育座り状態で日々何とか起きているだけの状態。
こんなときに、大学時代にとってもお世話になった先輩からの、電話。
もう時効だろうからいうが、そりゃ、本人(達)にとってみれば一生に一度のことだから、お誘いを受けた俺としてももちろん大変光栄なお話なのだが、なにせこちとらは上記のような状態だ、結婚式。その症状ド真ん中が、もう数ヶ月も続いていたのだから、本人だって何をどこからどう伝えていいのかわからない苛立ちの真っ只中で、ただ症状がとっても悪い、としかいいようがなかった。既に耳に当たってる受話器が、血小板でベトベトだ。
学生時代にもすっかり聞き慣れたこの人の口癖、「わかるよ」という相槌は懐かしくもあったが、こんな場面でごく簡単に返ってくるもんで。
ヲイヲイ、わかっちゃうのかよ?! 俺自身この時点ではまだ、原因も病名もわからんのに。
その舌の根も乾かんうちに、ご夫婦揃って家までお願いに上がる、というから、いやそういうレベルの話をしているわけじゃないんだが。
さすがに俺も、「も〜いいや俺、これから一生このヒトと話できなくなっても。」という結論を出すまでに、そう時間はかからなかった。拙い演奏にしても全身包帯まみれにしても、同じさらし者になるんだったら、俺は自分でトキとトコロを選ぶゼ、防衛行動、発動だ。
脳ミソがバラ色一色のヒトには、かように敵わないと思った。
この性格が変わっていないとすれば、このテの人は幸せな一生を送っていることだろうと思うよ。

ほらみろ、つられてこんな脈絡のないことを思い出してしまったじゃないか…。
闘病であろうが、仕事上のトラブルや一身上の問題ましてや子育てだろうが、病名も様態もそれぞれだろ。
個別の理由というのは、個人の想定範囲を超えているから「個別」なんだよ。
アンタと私は所詮、違う人間。
それをまず認めるところからしか、わかり合えない。
ささやかな自分の経験からしか出てこない想像力なんて、ちっぽけなものだ、想像もできないことがあるのだ、という無力感からしか、結局はわかりあえないから。
ヒトのとり得る可能性は全て、自分の想像の範囲内だ、などというヒトを俺は、相手にしない。
自分と全く同じ境遇の人間なんて、ひとりとしていないんだから。
だからこそ、できるだけ耳を傾けよう、理解しようと、思いやりの気持ちも生まれてくるんだけどね。

だから、相手にしないっていってるのに。こんなとこで、マトモに腹立ててどうする…って、やっぱりロクなことになっていないのだった。
気合だかなんだか知らないが*1、やだね〜、脳みそが筋肉なヒトって。

*1:もちろん、某有名格闘家のことをいってるんじゃないっすよ