思い出しついでに、「感情の話」をもうひとつ。

アトピー患者の集まりに顔を出していた頃、だからもう10年以上前のことだが。
とっても控えめな男性がいた。彼も重度のアトピーで俺と同じく病歴が長く、ありとあらゆる民間療法を試してきた、というちょっとした「猛者」だった。
そんな前向きさが気に入られたのだろうか、知り合ってから数年後、勤め先の同僚の女性と結婚したと噂にきいていた。
俺が前の会社を辞めることになる少し前、偶然に会った彼は、人が変わったように強い自己主張をする人になっていた。
「外見の病」なので、ともすると日ごろから目立たぬように暮らしているうちに、自分の想いを抑え込むことだけを覚えてしまった、というのは、患者の会ではよく聞く話だ。実際には本人が思い込んでいるほど、周りの人がアトピーの人を気にしているかというと(最近はそんなに珍しい病気でもなくなったし)そんなことはないんだが、そういう説得はほぼ通用しないことも多かった。
きっと彼にとってはこの結婚が、病を含めて自分の全てを受け入れてくれた、たった一人のヒトとの出会いになったのだろう。そうだとすれば、今となってはちょっとうらやましくもある。
「なんだ、自分の考えをちゃんといってもいいんだ」、今度はそれまでの周囲に対する思いや出し慣れていない感情が、抑えきれなくなって一気に噴出した・・・そう考えると、彼の豹変ぶりも俺としては妙に合点がいくのだ。どこまでも勝手な想像でしかないけれど。
俺自身にも、(きっかけは結婚に限らないだろうが)いつかそういうことを周囲の人たちにしでかしちゃう日が、来るのかも知れないし、来ないかも知れない。彼のはあまりにも極端な例だったとは思うが、今も時々、自戒を込めて思い出す。
そんな話を小学校時代からの悪友にしたら、
「今以上にかよっ」と一蹴されてしまった。
どうやらヤツにとっての俺は、すでに自分を抑えているタイプの人間とは思われていないらしい・・・(^^)
いずれにしても、このときのちょっとした諍いがもとで、俺が彼と会うことはその後二度となかった。