無伴奏ならくがき版 マイクの買い方(★☆☆定説の範囲ではないかと)

さて、先日23日は東京で、12月本番前の最終調整(練習)をしていました。
AUDIX OM-3(右)とEVのN/D767a(左)
今やメンバーの居住地も東京、大阪、千葉と、すっかりグローバル(?)になっていますので、わざわざどこでの出来事か書いてみたりします。
久しぶりにちょっと「目から鱗」な出来事がありました。
って、タイトルに書いちゃってますが。

音楽スタジオやライブ会場では、

SHUREというメーカーのSM58(通称ゴッパー)というマイクが主流で、俺寄せでもいつも、練習スタジオで用意されるゴッパーを使っています。アカペラ・バンドをやっていて、これを使ったことがないという人はまずいないでしょう。
今日は俺が久しぶりに、風通しを兼ねて持ち出したAUDIX OM-3というマイクを持参していました。機械は、時々はちゃんと、使ってあげないとね。
FUNEがこれに興味を示してくれたので、試しに練習の後半で、FUNEが使っていたスタジオのゴッパーと俺のOM-3を交換して歌ってみたところ・・・FUNEの声だけがスピーカから「一枚抜けて」聞こえてきたのです。それはもう、スピーカに張り付いていた紙が取れて、直接耳に届く音になった、まさに「抜け」がよくなったという体験で、おかげで彼がリードをとる曲では、他のメンバーにとっても音程や息を急にリードに合わせやすくなりました。
何よりFUNE本人が、得意とするファルセットでスピーカから聞こえる音が、自分の耳で聴いているのと近いイメージになったらしく、身体にもストレスなく歌えるようになった、と喜んでいました。
日頃、「声の入口」だとか「身体の一部」などと、マイク選びの大切さをいわれることはあるのですが、なるほど具体的にはこんな効果が。生身の身体を使った演奏行為では、ストレスなく身体を使える音環境って、思っている以上に大事にしなければならないことかも知れません(当然、「結果」にも少なからず影響があるのでしょう)。
もちろんマイクを替えたからって、急に歌が上手くなるという話ではありませんが。
OM-3についての補足情報。ひとり多重録音で使った感じではマイク自体の出力が心持ち弱いらしく、SM-58 よりはアンプで増幅してやる必要がありました*1。元々声量のある歌い手向き、といえるかも知れません。


さて話を戻して、

マイクを替えたくらいで、声ってそんなに変わるのか?

機能上はハンドマイクといったりする、日頃使っているマイクですが、電気構造上の区分ではおおまかにダイナミックマイクコンデンサーマイクの2つに分けられます。この辺り俺は素人ですから、正確な情報が知りたい方は別途ググってみてください。
ただ、ハンドマイクの大多数は構造が簡単で堅牢なダイナミックマイクです。例えば高価なものではコンデンサー構造のハンドマイクというのもありますが、ライブ会場や楽器屋の買い物で出会うケースは相当レアなはずです。使い手目線でいえば、「ハンドマイク≒ダイナミックマイク」と考えて差し支えないでしょう。
SM-58をはじめとするダイナミックマイクには「近接効果」という特性があります。マイクと口との距離が近いほど、低音部が強調される現象のことで、このためにボーカルでSM58 を使うときは「こぶし一個分(口元から)離して歌え」などと注意されたりします。使い方を誤るとマイクを通した声が伴奏楽器の音に埋もれるほどこもったりしちゃうんです。一方で元々声が高めで薄い人や、ベースやボイパの人はこの特性を逆手にとれば、より厚みをもった、低音部が強調された音を聞かせることができます。
ところでSM58 は音響現場で主流といわれつつも、初代が1965年製だったと思うので、変遷めまぐるしい電化製品のなかにあってはかなりのロングセラー商品です。対して今出来のマイクは、コンデンサーマイクの音に近い、よりナチュラルな収音特性を目指す傾向があるようです。主にスタジオ録音で使われる、構造が複雑なために高価で振動や湿気に弱いが空気感も含めて録ることができる、よりナチュラルなコンデンサーマイクの音をライブステージ上でも、という方向で開発が進んだ結果として、先ほどのOM-3もかなり近接効果が少ないマイクのひとつとなっています。
FUNEのように、マイクと口との距離が比較的近くて、歌っている間もあまりマイクとの距離を変えることのない歌い手にとって、取り回しがしやすいマイクともいえます。
これこそが、「一枚抜けて」聞こえた効果の正体でした。
こういう音の違いを文章で表すことは中々難しいのですが、これまで自分で使っていても、実はSM58 とOM-3の音の違いがこれほどだとは思っていませんでした。今回期せずして、耳慣れたFUNEの声を外から聞くことができたわけで、「こんなに違ってたんだ」という経験になりました。ちょっと、いや相当びっくりでした。

近接効果

のさじ加減については、個人的な好みや適性もあります。
俺自身はもう一本、Electro-Voice(EV)というメーカーのN/D767aというマイクを持っています。EVの前モデル(知り合いから譲り受けたので、型番忘れた)は、ライブ中に大声出しすぎたのか(寿命だっただけだろうけど)振動板を割ってしまい、やむなく廃棄、それでもEVを気に入っていたので買いなおしたものです。
こいつは混声アカペラバンド時代に使ってみて、歌っている本人がわかっちゃうほど「抜け」の効果が強くてびっくりしました。それ以降、混声・同声に限らずアカペラバンドでは使わなくなり、ひとり多重録音や楽器バックのリードボーカルのときに使っています。N/D767a自体はいいマイクで、それこそコンデンサーマイクのように息の細かいニュアンスまで拾ってくれます。ミスもしっかり拾います(><) グリルボール(マイクの頭の網の部分)に金色のワンポイントが入っているのでひと目でEVのマイクとわかり、また握り部分がSHUREより太くてしっかりしており、EVの上級機種に共通のラバー仕様になっているのでハンドリングノイズ(握りなおしたときの音)がしない、というのも大変気に入っています。この握りの直径により、クリップ型のマイクホルダでないと、マイクスタンドにはつけられないという「副作用」もありますが。
見た目以上に握りの太さや握り心地というのも、実はとても大切だと思います。手や肩にチカラが入るようでは、ボーカルに伸びやかな声は望めませんから。
そういえば同じEVから握り部分を極端に細くした「女性ボーカル用」シリーズを、数年前に楽器屋で見かけたのですが、その後どうなっただろう。
ネットで調べていただければわかりますが、SM58 を含む周辺価格帯であるこれらのマイクが、他社製品も数多くて選び甲斐があり、コストパフォーマンスも高いものが多いようです。
同型モデルで手元スイッチがついているものが用意されている場合があります。
一般的にはこの部分で電気接点が挟まっていることが、元々微弱なマイク信号のロスにつながるので、ついていないものがそのマイク本来の出音、と思った方がいいでしょう。不意のハウリングなどでは、手元にスイッチがついていないと不安になる気持ちはわかりますけどね・・・。


すっかりOM-3を気に入ってくれたFUNE氏、即アイフォンでOM-3をぽちっていました。グリルボールから握りに続く曲線ラインで指がひっかからないというのも、気に入ってくれた理由のようです。
蛇足ながらグリルボールを包むように持ちながら歌う方を時々見かけます。ハウリングしやすくなるので、今すぐやめましょう。卓から見ていると、ハラハラします。

マイ・マイクは必要?

持ってなきゃいけないものでもないと思いますが、自分の声を知るという意味でこんな「相棒探し」はいかがでしょう。関係ないけど「相棒」の再放送も最近はシーズン6以降のものが増えて、ちょっと食傷気味です。
いきなり買うのは敷居が高いという方には、今回のように持っている知り合いに借りてみるほかに、練習スタジオでも案内をよく見るとSM58 以外のマイクを用意してくれているところが結構あります。今日のスタジオでもSHUREのBETA58A(ゴッパーの後継モデル)、AUDIXのOM-5、ZENHEISER e-945(個人的に今、ちょっと興味あり)などの貸し出しがありました。

一方これは伝え聞いた話ですが、PAさんの中には会場備え付けのSM58を音づくりの基準にしているので、持込マイクを嫌がるところもあるらしいです。こういう場合、演奏者側が同じレベルで「使わせろ」と意固地になっちゃうと一触即発、トラブルの元です。一旦お客さんの顔を思い浮かべて冷静になりましょう。
俺の場合、身体コンディションに合わせてマイ・マイクを使わせてもらえたらラッキー、くらいのスタンスで持参することがあります。
また実体験としては、ライブ会場によって保管状態のよくないマイクが当たってしまうことがあり、前の使用者の口臭やカビ臭、たばこ臭がしたりしたこともあります。演奏に集中できませんね。花粉症の歌い手友達が、これでえらい目にあった、という話もあります。こういうときは、マイ・マイクとしてSM58 を持参していれば、トラブルは少ないでしょう。

マイクとPA卓をつなぐマイクケーブルも一緒に買いたい? そうですか。
長さは5〜7mもあれば、スタジオ練習やマイクの持ち込みが必要になる規模のライブハウス本番で、俺は不便を感じたことはありません。長すぎても不自由ですし、短すぎると身動きができなくなります。大規模な会場や中規模のライブハウスだとステージ上に中継ボックスがあるのでそこまでの長さがあればよく、逆に小さいライブハウスだとステージからミキサーに直接接続できる長さ、ということですが。

マイクケーブルなのでマイク側はキャノン(XLR)端子のメスになっていますが、卓側の端子はライブハウスなどでは同じくキャノン(XLR)オス端子が通常です。もうひとつはフォン端子というもので、太いヘッドフォン・ジャックと同じ形態。バンドでミキサーやアンプを持っていて、マイク入力がフォン端子だ、などというような場合は、こっちのマイクケーブルが必要になる場合もあるかも知れません。
まぁマイクケーブルの方はライブ会場に備えつけがあるので、本番演奏を想定した場合、持参することはまずありません。持参が考えられるのは、ストリート演奏や機材全持ち込みのケース、使用マイク数が想定より多い*2とか、会場のマイクケーブルが断線していたので急遽スペアが必要になった*3りとか・・・。

というわけで、

思いつきで長々と

書いてしまいました。「マイクの選び方」としてわかりやすくまとめているサイトは数多ありますので、ここまでの事例をさらなるご参考に供していただければ幸いです。
楽器ヤ(演奏者の方)のみなさんは、街を歩いているのを見ていて、ハードケースからでもギターだサックスだとはっきりとわかって羨ましい限りです。アカペラだとピッチパイプ(笑)、せいぜい音取り用のミニキーボードくらいですが、お気に入りのマイクがカバンの中にあれば、練習もちょっと楽しく捗るかも知れません。

今日のまとめ

  • 道具に歴史あり、歴史ある道具に魂宿る。発声にストレスのない、お気に入りの相棒を探しましょう。
  • 楽器の人たちは街中でも、何を演奏する人か一目でわかるので羨ましいです。
  • 意固地は年寄りの始まりです。

*1:実は俺所有ミキサーの、ヘッドアンプ側の増幅率の問題だったような・・・

*2:小規模ライブハウスの小型ミキサーが、マイクで2本までしか入らない、ということは結構多いんだよね。この場合はマイクを使う人数によって、マイクロミキサーかマイクアンプの持込が必要かも。

*3:これは経験あります。