雅楽、観に行ってきました。

ちょっとしたことから前日になって、職場の同僚が、翌日(!)雅楽の演奏をすることを知った。俺は元々、ライブ会場の下見で東京に行くつもりだったけれど、丁度東京マラソンの開催日だったので、「上り」方向の人出と混乱を想像しただけでもろくも宗旨替え。雅楽の方に顔を出すことにした。
といってもフォーマルな演奏ではなく、最近できた大規模商業施設「幕張イオンモール」の中、イベントスペースでの演奏。広い施設内、複数あるイベントスペースでは東京マラソンに対抗意識むき出し、でもあるまいがフル回転。芸能人からお笑い、「四十八女」の片割れまでが駆けつけるタイムテーブルになっており、JRの最寄り駅である海浜幕張では、帰宅ラッシュにむけてすでに厳戒態勢。シャトルバスの乗り場もすでに十重二十重の行列だったので、結局俺は駅から20分ほど歩いた。
館内についてまず、無料配布のフロアガイドを手にするわけだが、カタカナやアルファベット、漢字で店の名前が羅列されているばかりで、由来もわからない各国語の店名は、単なる記号の集合体。もはや何の店でどれほどのネームバリューがあるものなのか、世捨て人生活をしている俺に全くわかるわけもなく、演奏開始時間までの暇つぶしにしても、どこから見て回ったものか全くわからない。
もらったお知らせメールは今朝になってだったが、2回予定のあった演奏機会は、午前の部はメールをもらったときは洗濯をしていて間に合うタイミングではなかったから、午後の部一発狙いで顔を出すことになっていた。
同僚は、割と色黒でアジア人っぽいイメージの強い顔立ちだが、装束がなかなかキマッていた。横笛を担当しており、結構重要なポジションを任されているらしく、頻繁にソロ・パート(?)があったりした。
「世界最古のオーケストラ」といわれていると、曲間で簡単な説明があった。約1300年前の、音。
自国の文化なはずなのに、「異文化」に接しているようなわくわく感。
思い巡らすに当時は、音楽を聴きたいと思ってもデジタルオーディオ・プレイヤーがあるわけじゃなし。我々パンピー(平民)がこれだけの人数の演奏者と楽器を手配できるわけもなく、音楽自体を聴く機会も、そうおいそれと持てたわけでもなかろう。
それから気の遠くなるような長い「時間」というフィルターを通して培ってきた、この音楽独自の「研ぎ澄まされた部分」はどこなんだろう、そんな頭を使った聞き方を試みていたら、思った以上に結構愉しくなってきた。
どういう「美的」価値観で合奏されているのだろうか。
音程? 間? 各楽器の呼吸の合い方? 楽譜の再現度? そも楽譜ってあるのか・・・?

2012年3月11日、横浜の三景園で偶然出会ったのも、雅楽の演奏だった。
本来はこんな雑踏の中ではなく、雫の落ちる音が聞こえるような静寂な環境で愉しむべきなのだろうけれど。
中途半端な雑踏ではなかったお陰で逆に、そんな静寂を想像することも容易だった不思議。各楽器に割り当てられた音域が、例えば隣村まで聞こえるほど周囲に音がなかった頃の光景に、いつの間にか勝手に思いを馳せていた。

三景園での生演奏からこの間、一度も同種の音楽を聴いたわけではないのに、JAZZを聞いて面白いと思えるようになったときのように、雅楽も面白いと思えたのが大収穫。
聞き手に媚びない音楽って、こういうものだ。
そもそも、今の我々が無意識にイメージしてしまう音楽とは、恐らく全く価値観が違う音楽なのだ。