配転前、最終日

朝から頭の中、泉谷しげる「春夏秋冬」と、なぜか俺寄でも歌った「If」のループ。

今日ですべてが終わるさ
今日ですべてが変わる…

仕事量は今日のチーム解散日に向けて着実に減ってきており、もはや昨日と同じ。12時半には作業終了。最後の荷物は、これは全くの偶然だが俺がつけることになった。
その後は定時まで、専従で作業場の片付けに、仲間数人と入る。
向かいの作業場にはトレーラートラックが着いていて、大規模搬出作業中だ。
なんとなくみんな、別れを惜しんでだろうか、現場らしい荒っぽいことば遣いが影を潜めて、いつもよりも互いに口調が穏やかだったように思えたのは、俺だけだろうか。寝苦しかった前夜、俺の夢の中では日頃から仲が悪くて周囲が気をもんでいたふたりが今日を最後と言い争う、というものだったが、全くの杞憂だった。
今日までお世話になった若い上司は、明日から関西某所の現場に異動だそうで、肩書きがある人たちもそれなりに大変だ。異動の報告とともに、「今までのここでの経験があれば、みなさん何処に行っても通用すると思います」と労いのお言葉をいただいた。

配線関係を取り外し、大型の作業道具を一箇所に集めると、元々広大なフロアはみるみる何もない状態に。途中経過を知らずに明日出勤したら何もなくなっていた、というショッキングな事態にならずによかったと思うべきか。自らの手で片付けていく過程の「切なさ」に、その昔の六本木での引き上げ作業を強烈に思い出した。
本当はそんな「心労」に一旦けじめをつける意味でも、当初の予定通り有給を使って、正式な着任日の6月1日までとはいわないまでも、数日間でも休みたいところだったが…俺は明日から、ありがたいことに別部署からお呼びがかかっている。
夕方の休憩時間、人数は減ってしまったがいつもの顔ぶれで談笑しながら、それぞれに持ち寄った菓子をつまんでいた。俺の向かいの席では、いつもこの時間で退勤のNさんが、今日この場で提出していく勤務表を書いている。帰りのバスの出る時間になり、バス乗り場へ慌しく駆けていった。いつもと変わらない、別れの風景だった。

俺は当時、先の見えない状況の中でもいち早く残留の希望を出したが、作業環境は厳しかったものの、今は既にここを去った人たちも含めて、みんなのお陰で今日まで楽しく仕事をすることができた。単純作業だからと思っていると意外とコミュニケーション力が必要だったり、単純作業だからこそむしろ向き不向きがあったり…という経験もさせてもらった。
俺自身、こういうときになんだか湿っぽくなるのがダメらしく、顔見知りの仲間たちにちゃんとご挨拶ができなかったという思いだけが残ってしまった。
今日もいろいろ、楽しかったよ。ありがとう。
そして、俺の前を流れていった、多様で魅力的な商品たち。
スーパーやコンビニで見かけるたびに、しばらくはここでの作業を思い出してしまうだろう。
帰宅して風呂に入る前に、「同志」を労う気持ちで、カバンを洗った。
俺は明日から、「新人」に逆戻り。
「海の男」第二幕の始まりだ。