年頭・番外編

スロースタート。

「今日はおとなしめだよね。前の荒削りな演奏が好きだった。」

…すみません、コレ俺です。
酔ってたとはいえ、とんでもないこと口走っちゃったみたいで(笑)。
もっとも、時間が経ってから落ち着いて読み返させてもらったところ、決して「悪口」と誤解されているようでもなく、むしろなんらかのきっかけとして前向きに捉えていただいているようなので。
とはいえこの場を借りて、あの晩時間がなくていえなかったいいわけをしますが…

俺自身が随分長いこと、Kさん*1のドラム演奏を聴きに伺えなかったこともあるが、当夜のKさんの演奏は、俺の記憶の中の「熱い」演奏とは一変していて、それを俺は(ご本人に向かって)「自制的」と表現しちゃったわけだが。
トリオ演奏の一体感が際立った演奏にはなっていて、これもまた、俺からしたら豊富なアドリブの手数だけでなくKさんの演奏の(新たな)一面なんだな、と「小気味よく裏切られた」印象をもっていた。まだまだ俺の知らない「引き出し」をたくさんもっている人なんだろうなぁ。
それがいい悪い、とか好き嫌い、とか、そういう評価を下すような問題ではなく、その場のスリリングな、他の楽器との掛け合いを、ありのまま受け入れながら聞くことが、ジャズの生演奏の醍醐味だと思っている。

話はちょっと逸れるが、俺も含めた演奏を聴く側に回っている人たちは、必ずしも演奏者側の意図どおりの反応を返してくれるとは限らない(そんなことは演奏経験豊富なKさんも、百もご承知だと思いますが)。
極端な例としては、誰が聞いてもノリのいい曲を演っていたのに、ひとりのお客さんが涙されている…恐らくこの曲に、何か特別な思い入れがおありだったのだろう…なんてことも(美しい「思い出」を汚すようなことになっていなければいいのだが)。
演奏する側にもコンディションがあるように、聞いている側にも心理的な「ご都合」があって、その中でいろんな評価を下される。Kさんのブログに書かれていたこうしたことばの中には、俺が読んでも「とんでもないな」、と思うものもあり、会話の主はそのとき余程ムシの居所が悪かったとしか思えない。
もちろん、厳しいおことばこそが、発奮させられたり、自身の演奏を振り返るきっかけになるものではあるんだけど。
逆説的に考えると、時間を経て「いい音楽」といわれて残ってきたものほど、そういう幅広い解釈が可能で、だからこそ多くの人たちに支持されるんだと思う。
よほどのレベルの低い演奏でない限り、聴く側に回っているときの俺も、こうして好き勝手な想像をしながら、様々な刺激をいただいている。自分の音楽活動への振り返りになることもあるし、演奏者側はどんなことを考えながら演ってるんだろう、と妄想していることも。俺だったらこの曲をどう組み立てるだろう、などと考えていることもある。いろんなことを好き勝手に想像したりしながらも、数分間の演奏の場を「共有」できているんだと勝手に思っている。
俺にとって本当に「つまらない演奏」というのは、逆に全くこういう想像が働かない、心に刺激を与えてくれないものだ。
オリジナル曲を書いたことがない俺が偉そうにいっちゃうと、これが「オトナの音楽」をやっていく上で必要なものじゃないかと思っていて、一方でいつまで経っても上手くならないストリート・ミュージシャンのような人たちに、一番欠けているもののような気がする。

そんなお客さんひとりひとりには、もちろん悪意があるわけはないんだけど、人間というものは「集団」になると、構成員が全く意図しない「圧力」を持つようになる…政治学社会学の研究対象。緊張している余裕はなく、そんな客席に気圧されないよう、いつもの自分たちの音、いつもの自分たちの演奏ができるように、気力を振り絞って、毎回ステージに上がるようにしている。
まだまだ慣れないドラムでの演奏に臨んでは、俺としては一番長くて手馴れた、こうした歌での経験から、(ドラムの技術はまだ伴わないので)こういう「はったり」をかますことしかできない、んだよね。
そういう意味ではやっぱり、俺は「潔い音」が好き、ということにはなるんだろうけれど。
そのことを俺的なことばで表すと、日頃からここでも書いているように「演奏レベルよりも、やりたいことが伝わってくる演奏が好き」といういい方になる。蛇足だが、「やりたいこと」が伝わってくる、ということは、演奏上で「表現」が成功している、ということを意味している…。

ともかくもKさんがこの間、人知れず試行錯誤されていたのが、あの晩の俺のひとことから自身の演奏スタイルを振り返るきっかけにしてもらえたのなら、俺にとっては大変に光栄なことだ。

すみません、年頭からすっかり抽象的な話になってしまった。

先様のブログ記事をきっかけに、俺自身も音楽への考え方、みたいな話になったので、「番外編」としてみた。
2016年はこんな俺の音楽に対する価値観が変容するような出来事に、めぐり合うことができるだろうか、それはそれで楽しみ。

そのほかの当夜の出来事については、こちら(の長文で)。

*1:とかいったりして