Vol.91 巨匠!

いきなり涙、出ました。
オスカー・ピーターソン・カルテットのライブ(4日、東京国際フォーラム)でのこと。
それがどんな感情からなのか、とにかく自分でもわけがわからない。

よりによって2階席の最後列。実際ドラムの音が、見た目より32分音符ひとつ分くらいズレて聞こえるほど。
にもかかわらず。

ライブが始まって早数曲目、歴代ジャズの巨匠にささげられたという「レクイエム」。この曲で、既に涙腺がゆるんではいたんだけど。そういう涙の出方とも、かなり違う・・・。
その重苦しい雰囲気を、たったスネアの一撃で、もののみごとに打ち砕くと、バンド一丸となって、どっと次の曲になだれ込んでいく。
例によって、最初のころはドラムのアルビン・クイーンだけを、視力が良くなっちゃうんじゃないかというくらいじっと見ていた。途中も取り立てて面白いMCがあるわけでもないのに、いったい音だけで、どうしてこんなに楽しいんだろう、ワクワクさせられるんだろう。気付くとどんどん音に引き込まれていた。自然にカラダが動き出していた。音の粒子が、リズムをつむいでいく瞬間に立ち会っている。
とにかく圧倒的な迫力。

右隣の若い女性が、さっきからライドシンバルに合わせてひざをたたいている。のはいいんだけど、お前、それは頭打ちだろぉ、ずれてますからっ! さっきからスッゴク気になって仕方がない・・・。
にもかかわらず。

プログラムにあった近影では、ピーターソンは車椅子姿だった。しかしステージではとてもゆっくりながらもピアノまでたどりつき、しかも椅子に座ると、目にもとまらないパッセージをどんどん生み出して、ドラムやベースをぐいぐいひっぱっていくような勢いまである。
「ホエン・サマー・カムズ」「ケークウォーク」など、昨年のウィーン・ライブの曲目と思しき、俺のごとき初心者には耳慣れない曲の演奏が続く中、体力的にもアンコールはつらいのではないかと思っていたら、再び万来の拍手の中ステージに戻ってきて、おなじみの「サテン・ドール」。テーマが始まると同時に、客席からは歓声があがっていた。
当然、客席から手拍子がおこったが、なにせ会場が広いので演奏しづらいだろうな、と思っていたら、ピアノ・ソロで急に音量を落として、聞き手を演奏に誘導する機転。ホントのエンターティナーだ。最後のベースのひとフレーズが奏でられたときには、何千という客席すべての視線が一気に集中したのがわかって、鳥肌ものだった。

いきなりスゴイものを観てしまったらしい。俺みたいな初心者には、途中のレベルというものがあるだろうに。いきなりジャズの神様の演奏。

5分ほど、身動きもできず・・・。