ごうど駅、16:10。

山間の無人駅が、このときだけは若い声で賑わっていた。
下校する中学生達をぎっしり乗せて、3両に増結された列車は定刻どおり、発車していった。


私はただの観光客として、星野富弘美術館へ来ただけのはずだった
・・・実は観光バスの列に恐れをなして、結局入館しないで「退却」してきたところ。
約4キロの道のりをこの駅まで、散歩しながら戻ってきた。
秋の村の風景は、どこも一面、赤銅色に染まっていた。
・・・そうだった。紅葉が見たいだけだったんだ。


そうして、中学生たちが乗った列車を見送ってから、再び山の駅に訪れた静寂。
沢の流れる音は、駅の下からか。時々鳥が鳴いている。
太陽はあっという間に山かげに沈んで、山をみるみる紫色に浮かびあがらせる。
こんなとき、森の木々たちがいっせいに、声にならない唄を歌い始めたような錯覚に陥る。
山をうがつ高圧鉄柱は、さながら巨神兵
山の端に一番星をみつけたときには、思わずひとり、おお、と呟いてしまった。


次の上り列車は17:49までないことに、今ごろ気付く。
・・・山あいの時間はゆったり流れて・・・寒い。