街の音


▲月、です念のため。
時々ある、1時間早出出勤の朝。
まだ1月の窓の外はまだ真っ暗、向かいのマンションの窓に明かりはなく、節電に協力中で、ドアを一歩出た俺のアパートの廊下も、駅までの商店街の街灯も、消灯している。

鳥の一羽も鳴かない、まだ起ききっていないような街の光景を眺めながら会社に向かうのは、自分しか知らない映画を見ているようで好きだ。
急ぎ足の革靴の音が、追いかけてくる。
どこかの自販機で、缶が落ちる音がする。
むこうの県道からは、バスが身震いするようにエンジンをふかす音がする。
キーンと冴えわたった冷気、こころなしかすべての音が、夏より近く感じられる。
駅へ歩を進めるごとに踏み切りの音がさらに近づく。
通過電車のモーター音。機械油の焦げたような臭いが残る踏切を渡って改札口へ。

駅のホームの数少ない通勤客はいつも、慣れた距離感で互いにひとことも発しない。
時折、靴音と咳払いだけが聞こえる。
やがて決まった時間に自動放送が流れて、轟音とともにいつもの電車が前照灯を煌々とつけてホームに入ってきた。
カーブを曲がる京成線の車内は、実は地下鉄よりもうるさいことに気づく。

乗り換えた地下に入らない地下鉄の、高架線上からようやく見える日の出の力強さ。
毎日、一駅ごとに早くなってきている。
今日も仕事場まで、あと少し。

今年もまた、ここから始めよう。
4度目となるはずだった名古屋行きを、断念せざるを得なかった日に。