救急搬送

俺の部屋から数部屋離れたところに暮らしている、60歳代のオッチャン。
時々廊下ですれ違ったりしているのだが、顔は別に丸顔ではなく細面で、むしろ頬は歳相応にこけている。なのに、へそ周りだけが大きく膨らんでいる。どう見ても、いわゆる肥満、というものではなく、何か内臓疾患的なものだろう。
近々、何かが産まれてくるんだと思う。そんな感じ。
今夜日付が変わる頃、救急車が止まって、搬出されていったのは、件のオッチャンだった。
前に偶然すれ違ってからは、相当の日数が経っていたが、見るともなしに窓から見た搬出状況、オッチャンのお腹は以前の数倍に育っていた…やっぱり、近々何かが産まれてくるんだと俺は思う。
そういえばその数時間前、男性の叫び声が聞こえていた、ような気がする。俺の部屋からだと、表通りで酔っ払い騒いでいるようにしか聴こえなかったのだが。
所々つい茶化したように書いてしまうのは、何より「おひとり様」たる俺自身の、そう遠くない将来が目の前でリアルに現出したような不安に襲われているからだ。申し訳ない。

この日あたりを境に、救急車が乗り付ける回数が増えている。この前の日曜日は、1日に2回も出動があった。もちろん同じ部屋にだ。
同僚に話したところ、「入院する費用がないのでは」と、なるほどこれは切ない。別件だが、今はどこの大病院でも病床数が限られているので、いわゆる末期患者を病院が引き取りたがらない、という話も以前聞いたことがある。
夜間の出動では、救急隊の方々が相当物音に気遣っておられるのがわかるのだが、それでも救急車が止まればつい気になって耳をそばだててしまうから、お陰でなんだか寝不足な日が続いている。