フリソン・ジャズ・オーケストラ

近所の市民プラザ(公民館)では毎月、第2日曜日に映画上映会、第4日曜日にはミニ・コンサートが行われている。内容により無料なときばかりではないが、いずれも市場価格に比べればずっとお得だ。
ただ、映画の方は折りたたみ椅子で身動きできない状態のまま約2時間、というのは相当に疲れるような気がする。

今日は商店街に予告のポスターを見かけてからずっと気になっていた、「フリソン・ジャズ・オーケストラ」を聞きに、足を運ぶことにした。カタカナで書かれると、ビッグバンドへの個人的な思い込みと相俟って、俺はてっきり白人の方々か、と思いこんでいたのだが、バンド名の由来は県内の「富里村」(現在は市)の音読み! だと聞いて笑ってしまった。実際に足を運んでみると、カウントベーシーやグレンミラーの曲と演奏スタイルの、40歳Overが中心の純潔日本人男性たち、であった。

冒頭の職員からのご紹介で、「ここでの演奏は2回目」とのことだったが、実は1年ほど前、市民プラザの前を通りかかったときに演奏の音が外に少し洩れていて、あの時も確かビッグバンド・スタイルでの演奏だったから、もしかして。実はこの経験が、ここが市民プラザ(公共施設)なのだと俺が気づくきっかけにもなっていた。館内図を見ると、防音、ドラムまで設置された音楽スタジオまであり、当然いわゆる市場価格より格安の利用料。いずれ一度は、使ってみようと思う。

曲のもつジャジーなハーモニーと各楽器のソロ、様々な退屈させない工夫は、芸達者だ。
NTTドコモのCMで使われている「Get It On」の曲紹介では、この曲のオリジナルを演奏、ヒットさせたチェイスというバンド、一旦解散してしまったものの最近再結成した、と思ったら飛行機事故でメンバー全員死亡しちゃって、と会場全体がちょっとしんみりしたのを気遣ったのか、フリソンの地元メンバー(この方、このご町内在住だそうで)を指して「ウチのバンドではその可能性はなく、やはり自転車での移動が一番安全ですね」…。
自分たちにできることで、東日本大震災を忘れないように、と演奏された「東北民謡メドレー」も、愉しめる演奏だった。

一般にビッグバンドというと、ド派手なエンディング(フェルマータ)も特徴のひとつだと勝手に思っているのだが、俺の体内時計的にはあと数秒長くてもいいような気が…朴訥としたMCも拍手や盛り上がりを強要するようなことはなく、「ちょっとシャイなオッサンたち」だぜ、とすっかり好印象を持った俺であった。オトナの音楽だね。

この手狭な会場で金管楽器の演奏は、さすがにステージに近すぎる席だと金属音が耳に痛いだろうな、と思っていたが、ある程度和音として鳴ってしまうと、それ自身が金管楽器の波形を柔らかく聞かせるのか、それとも個々人の演奏方法によるものなのかはわからないが、思った以上に全体として柔らかい音になっていた。もしかするととても高度な演奏技術によるもの、だったのかも知れない。
俺自身はドラムをすっかり演奏しなくなったのにも関わらず、相変わらず無意識に、ステージ上のメンバーの間からドラムの手元が見える位置に、席を陣取ってしまう。スネアやシンバルの、スティックを通して感じるリバウンドが、見ているだけで俺の手にも蘇って感じられるようで、心地よい。
スウィングの曲ばかり演奏していると、エイトビートの曲がハシるように聴こえる、という俺自身の体験が、今回のドラマーの演奏からも感じられて、勝手な共感を持ってしまった。気になったのはスウィング・ビートで、1拍目裏が「均等」に近い。当時のスタイルの模倣によるものなのか、それともこのドラマーの特徴なのか…。

しかし、すぐ隣の部屋でこんな魅力的なコンサートをやっているのに、満席の「自習コーナー」の若者たち(の世代)を今日の客席でみかけなかったのは、全く残念だ。演奏関係者のご家族か、高齢者の付き添いといった方以外は、見たところほとんどが60歳以上。恐らく俺が一番若い世代で、40歳代以下に見える人に限ってみても、数えるほど、といったところ。
俺と同世代(か、それより若い世代)が寄り付かない演奏が続いたとするとなんだか寂しく、俺も無意識にこの場所からは足が遠ざかってしまうかもなぁ。
習志野市吹奏楽がとても盛んな土地柄なのだと聞いていたが、今日の自習室の若者の中にはたまたま吹奏楽部の生徒はひとりもいなかったのだろうか。
あるいは音楽の楽しみ方そのものの「世代間伝承」に失敗しちゃった、ということも。
これが俺だったら、受験勉強中だろうが何だろうが、サボるいいわけが欲しくて仕方ないわけで、たまたま居合わせた日曜日の自習室、その隣でこんな魅力的な演奏があると知ったら、躊躇なく足を踏み入れていたに違いない、のだが…自分たちが知っているスタイル以外の音楽には、全く興味を持たないのかな(もったいない)。感受性が高いのは、(心が)若いうちだけなのに…。

久しぶりに音楽的な刺激をいっぱいもらい、ちょっとぐったり。一見、淡々と進んでいるような演奏中、俺もそれなりに引き込まれて興奮してしていたのだろう。