29歳。

BayFMが開局29周年、ということでいつも聴いている某FM番組ではざっくりと、「29歳」をテーマにメールを募集していた。
そういえば俺自身の29歳は、どうだったっけか。

リツイートって、何ですか?


何軒医者を変えても治るあてのないアトピー性皮膚炎を抱えて、とっくに通院・治療は諦めてもう何年も、以前処方されたことがあるステロイド外用薬を薬局で買ってはだらだらと使い続けて、治療している気になっていた。
学生時代に付き合い始めた彼女との「これから」のために、をいいわけに、治るあてもなく使っていたステロイド外用薬をすっぱりやめたのが、26歳のとき。
今にして思うとなぜそんなことをしたのか、全くわからないんだが。
直感的に、「この強い薬は、長い目で見るときっと身体に悪い」と感じていたらしい。
当然、数日で猛烈なリバウンドの症状に襲われる。
一度でも塗ったことのある部位、ほぼ全身の皮膚が溶けてなくなった状態では起き上がることもできず、かといって寝ることもできず、折り畳んだ敷き布団にカウチ状態で座ったまま、身動きできない毎日がほぼ半年。
今でこそ当たり前だが、医者でもない俺がその原因に心当たりがあるわけもなく、当時は皮膚科医ですらステロイド剤のリバウンドについて知っている人は極一部。
たかがアトピー性皮膚炎にここまで重篤な症状があるとも思えなかったが、他に診断名がつくものなのかどうかもわからないまま、皮膚科と西洋医学にはとっくに見切りをつけていたので、高校時代に通ったことのある東洋医学の先生と二人三脚でなんとか乗り切ってきた。
これがステロイド剤によるリバウンドの典型的症状だったと知ったのは、寝たきりになってどのくらいだったか、テレビのニュース番組内の特集だった。「病名」がついただけで、なんだかほっとしたのを覚えている。
29歳の俺はまだその真っ只中にいて、皮膚症状にも人生にも先が見えない状態のまま、3年目。
実際にはようやく包帯で覆えば服は着られるか、という状態までは落ち着いていて、知り合いに合うことは極力避けながらも外出はできるようになっていた。しかしこのまま好転することも信じられず、状態が落ち着いてきた、という認識も当時はまだもてないでいたと思う。
いくつかやっていたアカペラバンドは丁度メンバーそれぞれが多忙になり、いずれも活動休止中だったが、メンバーのひとりが自室をスタジオ代わりに貸してくれたので(というか押し入った、という話も)、ひとり多重録音の音源をつくる作業に夢中になることで自身の症状から目を逸らそうとしていたのが28歳頃の俺。
女性にとっての「29歳」はまた、特別な意味があったことに気を回す余裕もなく、自身の30歳の誕生日もするっと通り過ぎ、翌年、交際8年のうち6年間も見た目にソンビだった俺につきあってくれた彼女と別れたっけ。
こうして頼るもの全てを失ったような気分になってようやく、自らの意思をもって社会へ「復帰」することになった。
29歳は、未練も後悔もない、ただの通り道。
ただ、音楽だけは続けていてよかったと本当に思う。
間接的にだが人と繋がっていたし、まだこんな自分にもできることがある、と思えるだけで自身を奮い立たせるモチベーションにもなったし、軽快化の実感はなかったものの、音楽について考える時間の長さが徐々に症状についてくよくよ考える時間にとってかわっていった。
よくいわれるように、自身の思いを音楽を通して表現している、というような意識は今も当時も全くもてないが、音楽は裏切らないものだな、と初めて感じられたあの頃。

どうもこのところ、過去を思い出してばかりで。
そういえば好んで耳にしている音楽も、高校時代に聴いたものだったり。
めっきり秋めいてきたせいなのか、それとも本厚木・匠での演奏機会を控えているせいなのか(マスターは高校時代の同級生)。