清水駅

一日2往復しか運転されないことで有名だった清水港線は、かつてこの駅から出ていた。もちろん今は廃線。その頃の面影はすっかり払拭されたような、近代的な建物。

駅前の商店街も立派なのだが、その割には人通りが少ない夏の午後、という感じで、ちょっと物悲しい。丁度その入り口に、エスパルスドリームプラザ行きの無料シャトルバス乗り場をみつけたが、さらに商店街へ足を踏み入れようという気分にならなかった・・・っつーか、腹減った。ここまで来たら初志貫徹だ、忍の一字。
シャトルバスはありがたいことに休日ダイヤ、15分間隔で運行しており、次は14:15。途中、静岡鉄道の新清水駅を通り、所要10分とある。
エスパルスドリームプラザに着くと、なにはなくともまずは腹ごしらえ。ミュージアムがなんだろうと、どこの寿司がどうだろうと知ったこっちゃない。呼び込みの女性が嫌味でなく、あっさりしてて感じのよかった一番手近な店に飛び込む。これが一階の「清水すし横丁」というコーナーだったらしい。握りの「中」を注文、しかし、14:30に昼の部が一旦しまるらしく、「ご用意できるネタ、これだけですけど、いいですか?」と、気さくなオヤジさん。(おう、こちとら江戸っ子でぃ、何でもいいから早いとこ握ってくんな)っていうか腹減った。
たまたま期間限定ブースだったらしく、「能良玄家」ののれんは、(店を出るとき振り返ると)九州・大分のすし屋さんだった。同じタイミングで入店したご夫妻の、オヤジさんとの会話に耳を傾けつつ、「ひらめのえんがわ、おまけしておきましたから」という寿司にようやく、ありついた。ウマウマ。
こうして腹が膨れるとようやく、来月の静岡アカペラ横丁の会場下見、という当初の目的を思い出す。
ここ、エスパルスドリームプラザは、駅前商店街での閑古鳥が嘘のように、人がいっぱい。
どうやらココにステージを組むんではないかな、と海側のボードウォーク上にアタリをつけた。もろもろの情報を勘案すると、写真右手の鉄骨下あたりらしい。
十数分ほど周囲を探索してみたものの、ひとりでふらっと来て何が楽しいはずもなく、みやげ物屋をひやかす頃にはすっかり、身の置き所がない余所者気分。駅へ戻る人で満員の無料バスを見送って、つらつら新清水駅まで歩くことにした。
別に、家の姿形が独特、というわけでも、建て込み方が違うというわけでもないのだが、何となくどこか懐かしい、静岡の住宅街。軒、縁側、露地たち。夏休みによく遊びにいった、父の実家あたりを思い出す。
さてと、清水の駅から東京に戻るにしても、いかにもまだ時間が早すぎる。といって東海道線で静岡駅に出て買い物、というのも味気ない。ここは静岡鉄道経由で、静岡へ出ることにした・・・というか、乗りたいだけなんだけどね。
バスのように大きな正面窓のステンレスカー、2両編成は、東京でいえばタマデンのような、とっても親近感が持てる、小さな電車。タマデンは元々が路面電車だが、こちらはレッキとした地方鉄道線。メイド・イン・東急車輛で、なるほど東横線井の頭線にもどこか似かよっている、兄弟分。家々の軒を掠めていく風情は、こちらも有名なエノデンほどではないかもしれないが、東海道線で一気に静岡へ抜けるのとはかなり違った印象、より生活の足な雰囲気、一駅一駅、丁寧に止まって行く感じが好ましい。終点の静岡側も、「新静岡」を名乗るように、JRの静岡駅とは徒歩連絡。そう考えるとJRのどの駅とも接続していないという、ちょっと不思議な私鉄なのだった。

さすがに汗ばんだTシャツを着替えたくて、静岡の駅ビル内で手洗いへ。水で絞った手拭でカラダを拭いてから、喫茶店でコーヒーすすりつつ、時刻表で帰りの電車をあれこれ物色している間に、クーラーの室内で手拭はすっかり乾いていた。帰りの長時間に及ぶ車内では、首に巻いて冷気を防ぐ。カバンの中でも、タオルほどにはかさばらないし。すばらしきニッポンの知恵、を実感。
同じ静岡でも、数年前浜名湖の山奥へ分け入ったときのように、移動に時間を費やしていないので、かなり余裕をもって17:23発の「東海4号」乗れてしまった、帰り。
窓の外を丁度同時に発車した、「こだま582号」に乗れば、東京着は18:56だが、こちらはゆっくりと(とはいっても時速120kmだが)19:40東京着予定。

側窓の大きな特急電車は、去年名古屋からの帰りに利用した「ながら」と同じ型なのでした。新幹線に乗らなかったワケ。
東海平野の暮れ行く景色を眺めつつ、車内で静岡駅で買った「ふる里弁当」を食す。栗オコワに添えられたおかず、盛りだくさん。桜海老かき揚げ、カツオの角煮が美味でした。
一日中うす曇だった今日の太陽も沈み、海岸沿いで空と海の境目がわからないような一面鉛色の薄暗がりに、道行く車のヘッドライトが漁り火のよう。そんな熱海を通過するころには、こちらもすっかりいい酔い心地夢見心地。
終着、東京。そろそろ通常出勤状態に戻りつつある平日の、下りラッシュの中央線に乗り換えた。
なんだか、乗り物三昧な一日。一体何をしに行ったのやら。
しかもこの程度ではもはや、遠くへ行ったという感覚が希薄だ。早く写真を現像に出そうっと。