「誰にだって、鬼門とされる場所ってあるもんだ。」
俺の打ち明け話を聞いたメンバーの、一様な反応。
かつて俺に、ステロイド剤を切る決断をさせたヒトが住む町は、すぐ隣駅なのだ。
俺にとっての「中央線」は、この「宇都宮線」だったりする。
そういってしまうと、なんだか非常に、ハナシが安っぽくなるんだが。
そうして10年もの時間が、病気との闘いだけのために、無為に流れた。今のようにある程度自由にカラダが動けるようになるのに費やした時間。

そんなフラッシュバックがとっても重い気分を抱えたまま、こちらは別の意味で今日が最後になる、東中野のリーダー宅での練習へ。出掛けに梃子摺ってやや遅刻、ナカチョとカナちゃんを待たせる結果になってしまった(すみません)。午前中は9月の静岡行き特別編成練の日だった。いつもと違うメンバーと音環境に、目を白黒させつつなんとかついていく。
たったこれだけのことで、自分の声の出し方が違っていたことに気付いたのは、午後にリーダーが加わって、いつもの練習になってからだった。
ほんと声って、メンタルな楽器だぜ。
思い起こせばアカペラでは、バンド自体がある程度(活動休止)時間を置いて、メンバーを変えたことはあったものの、今回のようにセッションに近い形でメンバーが違うのは初めて。しかも混声で。
以前、トップがさすけから変わったときは、男声から混声に歌い方を変えた以上のことは考えないようにしていた。そんな余裕や耳がなかったことも事実だが、俺が歌い方を変えることが却って他のメンバーの混乱の元にならないか、とも思ったものだ。なんといってもテナーは、本人が思っている以上に目立つ、影響がでかい。
・・・なるほど、面白い経験だったな〜。9月には都合により同行できないため、今回はソトで聴いているリーダーからの感想も、逐一新鮮だった。一緒に歌っている普段は、冷静には聞けないもんね。

今回のようにふさいだ気分でも、練習に行くと、自然といつものように笑顔になっている自分が不思議だ。
こうしてオトナなメンバーのまなざしに見守られながら、すっかり「やんちゃ」させてもらっている。

大学近くの池袋へ宇都宮線が乗り入れてきて、ここが始発だった頃は湘南新宿ラインなどという名前はまだなかった。
予定通り新宿から一本で、東大宮まで。車内は夕方なのに、そんなに混んでいないお盆休み。かつて通い慣れた道のり。