ラジオの鳴らない、木曜日。

近所のスーパーのイートインで昼食を済ませて、児童公園経由で帰宅、いつもの散歩。
公園入り口の桜の木は丁度満開で、今日の強い北風に煽られて、ときおり桜吹雪。通りがかった若い女性2人が感嘆の声をあげながら、スマホ片手にどの角度から撮影しようか相談しあっていた。
今年の桜ももう、終わりか…(花見目的の外出、一度もしなかったな)。

こんなことなら早起きして観桜がてら、今読み進めている某小説の都内「聖地」あたりまで足を延ばしておけばよかったか。
毎度無計画な、仕事平日休み。
その日になってから思い付きで移動しても、いいことなんかあるわけもないんだ。
午後からはみるみる天気が悪化してきて、風向きも北風に。いつ「処に寄り雨」になるのかわからない状況に、足早に部屋に戻る。

隣室は本格的に家具の導入を決めたようで、何度かにわけて先日俺が買った本棚のようなデカいダンボールが次々と届いていた。
一方の俺はというと、今回の本棚購入にもかなりの勇気が要った。高価な値段もそうだが、入居から数年は所詮「賃貸」だし、またいつ引っ越さなければならない事態になるかもわからない、という気持ちの方が強く、これまで正直、移転で足手まといになりそうな大型家具を買うことは控えてきていた。
しかし、あっという間に10年か。
俺の入居当時に生まれた子どもはとっくに自力歩行ができるようになっていて、小学校に通い始めて難しい漢字のいくつかも書けるようになっている…。

そんな俺がある日突然居なくなっても、ここでは誰も気づかないし、誰も困らないな。
悲観的になっているわけではなくて、それだけのことが東京暮らしと違って思いのほか、今の俺にとっては居心地がいいのだ。
多分、これから先の10年も、そう大きく変わることはあるまい。
だとしたらいっそのこと、誰ひとり知り合いのいないこの地で、人生をこのまま全うするのはどうだろう。
先ほどスーパーへ行く途中の道で、住宅街にある自転車屋のおやじが、通りがかった近所の女性と得意気に談笑している光景が目に入った。
俺より少し若く見えた女性は、明らかに話が長くなりそうな展開に辟易としていた。
俺はこれほどまでに人恋しいわけでもなければ、増してやこういう風に同情やお情けでまで誰かに友だちになって欲しいと思っているわけでもない。
何より俺自身が好きだった音楽をやっていた時ですら、活動を通じてあの程度にしか、知り合いが増えなかったのだ。
コロナ禍による自粛も3年目に入り、その音楽すら辞めてしまい、ただでさえかように人間関係に不器用な俺に、今以上に親しい知り合いが増える機会も、もう今後はあるまい。

春の、進学や就職で全国的に人が大規模異動する時期を待たずに、まん延防止等重点措置は解除されてしまった。
しかし俺はもう何年も、頑なに暮らし向きを変えておらず、やむを得ず通勤以外で都内方向に足を延ばす場合は、平日休みの昼間に限定、我ながら臆病なほどに週末はまず公共交通機関すら使わなくなり、この街から出ることがない。
なぜ「ここで一気にカタをつけてやる」(沈静化)、くらいの気概が発揮できないのか、と周囲のフリーダムな人たちを見ていると常々もどかしく思う。
しかし、彼ら目線で俺の自主規制している行動を見ると、「何でまん延防止等重点措置が解除された今、率先して経済を回さないのか」ということにもなるのだろう。

年度も新たになったので、今後はこうした決意も踏まえて、誰からのお誘いであっても「酒はひとりで呑むもの」と決めた。
友だちと飲みに行くという行為がそもそもどういう「楽しみ」だったのかも、もうすっかり忘れてしまった。
今、誰と一緒に飲みに行きたいかと問われても、実はひとりの顔も思い浮かばない。
元々外食する習慣もないし、運よくコロナ禍が収まったとしてもここ何年もそんな経済的余裕はないのは同じなので、誰かと進んで連れ立って外食に行くということももうないだろう。
外食してまで食べたいものというのも、実は思いつかない。
経済指標的に俺は「戻らない客」なのではなく、そもそも「元から勘定(GDP)に入っていない客」なのだった(課税対象としてはきっちりと算入されているらしいが)。

月初恒例、パソコンデータのバックアップを始めたら、向こう5時間にわたってパソコンが使えなくなってしまった。
「ラジオの鳴らない、木曜日」
に耐えかねて、さしたる期待もないまま懐かしのJ-Waveにチューナーを合わせてみた。
テレビと違って、ラジオのチューナーを動かすことはこれまで全くなかったのだが。
ちゃんと電波が入ったのにもビックリしたが、「グルーヴライン」が淡々と内容を変えずに続いていたのに一番ビックリした。
さすがに西沢さんの声は年相応に落ち着いた雰囲気にはなっていたが、変わらないコンテンツ陣になんだかほっとしてしまった。
今後木曜日は、こっちを聞くことになりそうだ。

仕事休みの平日にこれだけのことができたからまぁいっか、休養日としては。