退き際。

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学生時代、地域の人々に惜しまれながら、ある銭湯が閉店した。
俺はこの店は使ったことがなかったが、当時はまだ下宿というと風呂なしの物件も多くて、銭湯が生活に欠かせないという人も多い地域だった。決して遠い昔のことなどではなく、「平成」の話だ。かくいう俺の当時の下宿も風呂はついていなかったし。


それだけなら珍しいことでもなかったのだが、この銭湯、利用者たちの惜しむ気持ちがどう届いたものかどうか、閉店の掲示の数日後に「感謝のことば」とともに営業を再開していた…しかしそれも3ヶ月はもたなかったようだ。
誰にでもいつかは必ず訪れるものの、退き際って難しい。

月に一度の「給料日の楽しみ」にしていた定食屋は、先月の台風15号襲来の後、ついに再びシャッターを開くことはなかった。
直後に足場が組まれ、何やら工事が行われていたので、被災されたのか、と心配になりつつも、工事が入ったということは遠からず営業再開するものと楽観視していた。
しかし足場が撤去されてから、もう1週間。
先週末、初めてシャッターが半分開いているのを通りがかりに目撃した。
しかし覗き込むのがはばかられた…開いた足元には、あるべきモノが見えなかったから。
シャッターの内側には引き戸がはめ込まれたガラス窓があったはず…。
そういえば店休日には必ずシャッターの外に出されて日の光を浴びていた色とりどりの鉢植えも、いつしか見かけなくなっていた。
そして今日、シャッターは全て開かれており、何やら工事業者が入って作業をしているのが覗き込まずとも見えた。
店だった区画には、見慣れた壁紙以外、何も残っていなかった。
今ごろあの老店主ご夫妻は、どこでどうされているのだろうか。
そしてあの焼肉定食が、もう食べられないのか…。
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