音楽の、いぶき。

俺にとっては秋の音楽風物詩となっていた「ふなばしミュージックストリート」は、今年もオンライン開催だったそうだ。
応募要項には書いていないが動画の撮影にはそれなりの機材も、演奏を閲覧するためにはハードもソフトも必要で、状況が状況だから仕方ないとは思いつつも、教育、医療に続いて音楽の世界でもついに「格差社会」が始まったか、などとカタいことを考えてしまう。
船橋に限らず、そもそも地域名を冠したイベントながらオンラインって、よく意味がわからないんだが…「船橋市内の観光名所をバックに、出演バンドが演奏している動画であること」、とかが「出演」要件ならまだわかるけど。
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一方、同じく秋のミヤジャズ(宇都宮)は、この土日の2日間開催だった。
このコロナ禍の中、演奏会場をメインステージであるオリオンスクエア(屋外)だけに絞って、感染対策を施しながら縮小開催している。
会場は仮設フェンスで囲まれていて、「入場(人数)制限」中。
2m離して間引いて並べられている折り畳み椅子の座席はちょっと殺風景にも見えるが、他にも数々の配慮がされていて、お陰で安心して演奏を楽しむことができる。
いっそ飲食禁止となっている会場には入らず、会場外から腰までの高さのフェンスにもたれて缶ビール片手に覗き込んでいる方が、気ままでいい感じもするが。
入り口のお姉さんが、仮設フェンス外から眺めている俺のような人たちにも積極的にパンフレット(タイムテーブル)を配り歩いてくれていた。
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客席が見た目ガラガラに見えちゃうせいなのか、今ひとつお客さんとの距離を縮め切れないような演奏が続いている(個人の感想です)。
いよいよプログラムも後半戦…というところ。
やっぱりリズムが締まっている演奏は、それだけでカッコよさが爆上がり。
特に俺自身がドラムを叩く(真似事をする)こともあって、ベーシストがぐいぐいリズムを「前進させる」役目を担っているバンドが好み。
こういうリズム隊の「阿吽の呼吸」のようなやり取りは、やはり録音を聴いているだけではわからない。

アルトサックスのむせび泣くようなソロを耳にした途端、ここに辿り着くまでの「道のりの長さ」を思い返し、ことばで言い表せない感情が一気に噴き出してきて、やばいやばい…不意に涙が。
演奏内容が泣かせる曲だった、というよりも(無理やり文字に起こせば)
「あぁ俺、なんとか生き延びて、ここで生演奏聴いてるよ」
っていう感じだったのかも知れない。
感謝の思いを関係者に直接お伝えする術がないのが、何とももどかしかった。
そんな思いを吐き出そうにも、今日の俺には話しかける相手もいない。

リズムに合わせて気持ちよく身体を揺すりながら聴いていたら、やや人数が増えてきた客席後方で隣に並んで立ったオッサン、どうやら入れ歯があわないものらしく、リズムと無関係に頻繁に舌打ちのような音を出すもんだから気が散っちゃって…せっかくドラムが正面から抜けて見える立ち位置だったのだが、バンドが入れ替わるタイミングで右前の席が空いたので、以降座って楽しむことに。
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どの出演者たちも、ここまで年内の演奏予定が悉く中止に追い込まれてきたことへの思いを、異口同音に訴えていた。
みんなそれぞれに、悲しさ、さびしい思いや無力感を抱きながら、なんとかここまでやってきたのだろう。
そして、音楽はこの街に「戻ってきた」。
イベント自体はどういう形であれ、これからも続いていくだろう。
演奏する人間が絶えることもない。
たとえ俺ひとりが、歌わなくなったとしても。
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今日予定されていた全ての演奏が終わると、司会者おふたりの締めのことばまでしっかり聴いて拍手を送った後、「祭りの後」のちょっと物悲しい空気に浸る。
ステージ上では片付けと並行して、明日一番手のバンド演奏のセッティングが始まっている。
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ステージ正面のオーロラビジョンには
「また明日お会いしましょう!」
の文字。
そう、「明日」はちゃんと、やってくる。
なんだか感傷的になってしまった。

なにはともあれ「祝杯」を上げたかったので(単に飲みたいだけ)、帰りは通勤電車然とした東武宇都宮線ではなく、これまでそうしてきたようにJR東北本線ボックスシートに陣取る。
当然ながら、例年のような自身の演奏後のような高揚感はなく、録音も動画も手元に残っていない。
「そして、誰もいなくなりました。」
そんなことばが不意に頭に浮かんでしまう。
っていうかこの電車、ミヤジャズ(=餃子祭り)当日の復路は、こんなにガラガラで静かだったっけ。
発車時間を待っている間に、駅なかで買った餃子(2人前)を食べつくし、缶ビールも飲み切ってしまった。もう1本買っておくべきだった。
道中、なぜだかいつものような心地よい酔いが、全然回ってこない。
暗闇に時折車窓を流れていく明かりを、ぼーっと眺める。
俺はこれから先、もう宇都宮に来ることもないんだろうな。